ベトナム人による犯罪が日本で報道されると、技能実習生なんて言葉を目にする機会もあるかと思います。しかし日頃からこの技能実習生に関わる機会が無い人はいまいちピンと来ないという人もいるでしょう。本記事では技能実習制度と実態、実習生に関わる組織などを紹介していきます。
技能実習制度とは
詳しい内容は色々なサイトで語られていますので、そちらを参考にしてもらえればと思います。面倒な人は下に簡潔なポイントを書いていますので、そこだけ理解してもらえれば十分かと思います。
・日本が来日する新興国の実習生に対し日本の技術を教えて、帰国後に学んだ技術を使って母国の発展に貢献してもらうという制度。ただしこれは建前で実情は日本の労働人口不足の補填。
・実習期間は1年、3年~5年が普通
・かつては研修生と呼ばれていたが、現在は実習生と呼ばれる
・従事する仕事はブルーワーカー職
・技術を学ぶのではなくお金を稼ぐ目的で実習に来る
どんな人が実習生として日本に来る?
このサイトはベトナム情報サイトなのでベトナム人に限って書きますが、他の国であったとしても似たようなものかと思います。
一般的に経済的に豊かではなく、学歴も高卒程度ぐらいの人が多いです。逆に言うと経済的にそれなりに豊かで、そこそこの大学を出ている人は日本でブルーワーカーの仕事に就くメリットなどないわけです。日本人がやりたがらない仕事はベトナム人でもやりたがらないわけでして、ベトナムでも似たような仕事に就いている人が実習生として日本に来日します。
日本に来るまでのプロセス
ベトナム人実習生は日本に来るまでに以下のような手順を踏みます。
①ブローカーに日本の求人を紹介されて送り出し機関へ入校
②日本の受け入れ企業、協同組合による面接
③面接合格後は送り出し機関にて日本語教育を受け、ビザが下りるまで待機
④ビザが下りたら日本へ行き協同組合の施設で研修→企業へ配属
このような流れで進んでいきますが、①~④について以下で詳しく解説していきます。
一番最初に関わるブローカーとは
ブローカー(募集人とも呼ばれる)とは地方の実習生候補を探す人で、日本の求人を持って各地方で募集活動を行います。専業でやっている人もいれば副業でやっている人もいますが、ブローカーは求人を紹介する代わりに実習生から口利き料として1000USD程度要求する人が多いと聞きます。実習生としてはまずここで金銭的な負担を強いられるわけですが、手渡し&個人間のやり取りなので表面化することはありません。
送り出し機関の役割
実際に求人を紹介されるとその求人を扱う送り出し機関と呼ばれるところに入校します。ここは日本へ行く前の面接や事前教育機関の役割を担っていますが、ここで支払うお金が高すぎると、かなりの借金を背負って日本へ出稼ぎにいくことになります。高額な金銭を納める必要があり、借金問題から日本で疾走する人が相次ぎました。そこで失踪させないために保証金として更に高額のお金を預けさせ、失踪したら保証金は返さないというやり方で失踪を防止しようとしたりもしていましたが、現在は保証金を取ることは禁じられています。
現在表面上は送り出し機関は3600USDまでしか実習生から取ってはいけないとなっていますが、実際のところは7000USD前後までは黙認されているようです。なので結果的には前述のブローカーに支払うお金や、その他諸々でトータル10000USD程度のお金を使って日本に行く実習生が多くなります。
協同組合って何してるの?
協同組合(*それ以外の名称もありますが、「~協同組合」という名前が多いのでここではその名称を使います)とは実習生や受け入れ企業の仲介役と考えてもらえればと思います。実習生を受け入れたいとある企業が思ったとしても、現地のどの機関を使って実習生を募集したらいいのか?ビザ処理はどうすればいいのか?現地送り出し機関との連絡業務など複雑な処理が絡んできます。中小企業などであればそれ専用の部署を作るなんてことも困難なところがほとんどです。なのでそういった面倒な処理を代わりにやりましょうという組織が協同組合です。
ところが現地送り出し機関と癒着している悪い協同組合もあります。劣悪な就労環境と分かっていながら、その企業の求人をベトナム人実習生に紹介したり、実習生を一人受け入れるに応じて、いくらか協同組合にお金をキックバックさせるよう送り出し機関に要求するなんていうこともあります。もちろんこのキックバックのお金がどこから出ているかというと、実習生が送り出し機関に納めるお金から出ています。
日本人出張者にする接待
現地の視察で協同組合や受け入れ企業の人がベトナムに来ることがあります。大よその目的は受け入れ予定の実習生の様子を見に来たり、実習生の受け入れを検討している人が送り出し機関の施設を見学に来たりなどになります。しかし中には半分以上旅行感覚で来る日本人もいるわけで、現地の接待役(送り出し機関の営業部または対外部と呼ばれる)に観光ガイドの役割を担わせたりします。
折角のベトナム出張なので空き時間にベトナム観光をすること自体は悪くありません。しかしタチの悪い日本人は案内役のベトナム人女性にセクハラをしたり、夜の接待(カラオケ、キャバクラ)などで手を焼かされるベトナム人も多いです。日本人の接待をやっているベトナム人女性の退職理由の多くは上記のような理由になりますが、当の送り出し機関もそれを見越しているところがあり、営業の女性を募集する際には、募集要項に見た目に関する応募条件を載せているところもあります。因みにそんな接待の費用がどこから来るかというと、やはり実習生からのお金となるわけです。
送り出し機関での実習生の生活
日本の受け入れ企業が決まると日本語教育や日本の文化などを学ぶため、約半年ほど泊まり込みで生活をします。基本的に朝から夕方まで缶詰で週末のみ外出が認められているところが多い様に思います。ビザが順調に下りればそのまま日本へ行きますが、中々下りずに一年ほど待機状態になる実習生も中にはいます。この送り出し機関の日本語教育レベルは玉石混合で、いい加減な送り出し機関ほど教師の日本語力や指導力も低い傾向があります。一方実習生も語学に関する素養などから、どれだけ勉強しても一向に日本語が上手くならない人もいます。また生来の性格は短期間で教育しても矯正はできませんので、元々性格的に問題のある実習生を取ってしまうと、日本に行ってからも扱いに困る企業が多いようです。
来日から実習まで
ビザも下りていよいよ出国となると、同じ送り出し機関で学ぶ仲間や地元の家族と暫くのお別れをし、日本へ向かいます。その後協同組合にて1か月ほど研修を実施しますが、ここでも基礎的な日本語教育や日本での生活、マナーなどを教わります。この一か月研修を修了後に晴れて日本の会社で就業、賃金を得るという流れになります。
以上が大まかな流れとなりますが、ブローカーから求人を紹介されて、日本の現場に立つまでには大よそ1年ぐらいかかるのが平均的です。
近年の事件から感じること
実習生などが日本で犯罪を犯すとこれまでに書いた金銭的な問題や日本の就業環境について言及されることがよくあります。確かにそういった要素はあるので是正できることからどんどん改善していってほしいとは思うのですが、それ以上に私が感じているのは風評被害についてです。
実習生やそれ以外のベトナム人でも日本で真面目にやっている人はたくさんいます。しかしこのような事件が起きると実習生やベトナム人を一括りに叩く日本人が必ず出てきますので、そういう真面目なベトナム人は肩身の狭い思いを強いられます。また昨今の実習生を搾取しているという報道から、健全に実習生を受け入れている企業も白い目で見られることもあります。
実際には雇う側も雇われる側も互いに感謝して実習を修了している企業もたくさんあります。このような現場で直接ベトナム人と接する機会のない人は心無い言葉を浴びせがちですが、それによって辛い思いをしている人がたくさんいるということを知ってほしいと思います。